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最高裁判所第三小法廷 昭和35年(あ)735号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人石川元也、同小牧英夫の上告趣意第一点について。

所論は、原判決の憲法三一条違反をいうが、実質は単なる訴訟法違反の主張であって、適法な上告理由に当らない(なお、論旨は、原判決およびその是認する第一審判決の刑訴二五五条一項の解釈を非難するけれども、同項前段の「犯人が国外にいる場合」は、同項後段の「犯人が逃げ隠れている」場合と異なり、公訴時効の進行停止につき、起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかったことを前提要件とするものでないことは、規定の明文上疑いを容れないところであり、また、犯人が国外にいる場合は、実際上わが国の捜査権がこれに及ばないことにかんがみると、犯人が国内において逃げ隠れている場合とは大いに事情を異にするのであって、捜査官において犯罪の発生またはその犯人を知ると否とを問わず、犯人の国外にいる期間、公訴時効の進行を停止すると解することには、十分な合理的根拠があるというべきである。これと同趣旨にいでた所論原判示は相当である。)。

同第二点について。

論旨は、出入国管理令六〇条二項、七一条は、旅券法一三条一項五号の規定と相まって憲法二二条二項に違反すると主張する。

しかし、憲法二二条二項の「外国に移住する自由」には、外国へ一時旅行する自由を含むものと解すべきであるが、外国旅行の自由といえども無制限のままに許されるものではなく、公共の福祉のために合理的な制限に服するものと解すべきであること、および旅券法一三条一項五号の規定は、外国旅行の自由に対し、公共の福祉のために合理的な制限を定めたものであって、憲法二二条二項に違反しないことは、昭和二九年(オ)第八九八号同三三年九月一〇日大法廷判決(民集一二巻一三号一九六九頁以下)の判示するところである。また、外国人の出国に関する出入国管理令二五条の規定につき、同規定は出国それ自体を法律上制限するものではなく、単に出国の手続に関する措置を定めたものであり、かかる手続的措置のために事実上外国旅行の自由が制限せられる結果を招来するような場合があるとしても、出入国の公正な管理を行うという目的達成のため設けられたもので、憲法二二条二項に違反するものでないことは、昭和二九年(あ)第三八九号同三二年一二月二五日大法廷判決(刑集一一巻一四号三三七七頁以下)の判示するところであるから、日本人の出国について右二五条と同趣旨を規定している出入国管理令六〇条並びに右二五条二項、六〇条二項違反に対する罰則規定たる同令七一条の各規定が、憲法二二条二項に違反しないことも、右判決の趣旨に徴し明らかなところである。論旨は理由がない。

同第三点について。

所論は、原判決の憲法三一条違反をいうが、実質は事実誤認およびこれを前提とする単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由に当らない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一 裁判官 横田正俊)

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